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安倍外交に見る「失敗の法則」〈前編〉

なぜ安倍外交はうまくいかないのか

■抜け落ちた基本認識

 お気づきになった方も多いと思いますが、総理のスピーチからは

「北方領土問題の解決(要するに返還)が、平和条約締結の条件である」

 という基本中の基本が、ほぼ完璧に抜け落ちているのです。

 2016年12月、プーチンを長門に迎えたときに、北方四島における共同経済活動のための制度整備をめぐる協議開始や、元島民の自由な墓参の実現などを約束したとか、平和条約締結が容易でないことは互いに知り尽くしているといったくだりが盛り込まれている程度。

 それどころか、このスピーチからは「日本とロシアの国益は一致しない」という当然の認識すら、読み取ることができません。

 なにせ日本とロシアの間に永続的な安定が生まれたときの光景について、総理はこう語っているのです。

 北極海からベーリング海、北太平洋、日本海は、平和と繁栄の海の幹線道路になることだろう。

 対立の原因をなした島々は物流の拠点として明るい可能性を見いだし、日露協力の象徴へと転化するだろうし、日本海も恐らく物流のハイウェイとして一変しているだろう。

 グローバリズム丸出しとしか言いようがない!
 しかるにグローバリズムにおいては、国境や国籍にこだわるのはよろしくなかったはず。

 これで領土にこだわれるはずがありません。

 さあ、プーチンはどう応じたか?

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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